このところ夫のさん生は朝帰り続きである。朝帰りというより、昼
帰りというべきか。日も大分高くなった十一時近くになってふらふ
ら戻ってくる。毎度のことだがかなり酒臭い。そのまま隔離したい
ぐらいの臭気である。
結婚して十八年もたてば、しかしこの程度のことでは驚きもしない。
どこでお世話になっていることやら、とさすがに気にならないでも
ないが、無理に聞き出すのも面倒である。下手に聞いたら知らぬ顔
をしてるわけにはいかなくなる。当然のことながら、妻として礼の
一つも述べなければならない。いや、世間一般の常識から言えば、
「夕べはどこに泊まったの?」と夫を詰問し、すぐに電話をかけて
きちんと礼を言うのが筋なのだろう。面倒だなんてほっぽり出して
る私は、きわめて非常識であると言わざるを得ない。
だが、これが毎日続くとなると、そのような心配をするのも何だか
馬鹿馬鹿しくなってくる。夫にすれば、内緒にしたい話もあるかも
しれない。あれこれ聞き出して、礼の電話をかけたところが、万が
一、相手にはまったく覚えのない話だったりした日にゃ、こりゃ収
集がつかなくなる。二時間ドラマの主人公じゃあるまいし、そんな
ことでいちいち幸せを崩壊させたくない。
先日はとうとう丸二日家に戻ってこなかった。昼過ぎに家を出て寄
席に向かい、出番が終わったらそのまま飲みに行き、どこぞで夜を
明かして目覚めたら、知人の葬儀に出なければならなくなったとか
でその足で葬儀に向かい、葬儀に出た後、また寄席に出演し、出番
が終わったらそのまま飲みに行き・・・。せめて二日目は夜明かし
せずに帰ってくれば良さそうなものを、また昼近くに酒臭い息を吐
きながら戻ってきた顔を見たときには、怒るも呆れるも通り越して、
何だかおかしくて笑ってしまった。
もっともだからといって快く家に出迎えるのはさすがに業腹である。
と言って面と向かって文句を言うのも何だか悔しい。
「とっちゃん」
と私は猫に話しかけたものだ。
「知らないおじさんが家に入ってきたから気を付けようね」
留守番組結託の記念すべき朝だった。