男の人はどうしてあれほどじゃが芋が好きなのだろう。肉じゃがは
言うに及ばず、コロッケ、シチュー、カレーライス・・・。殿方が
好きな料理にはじゃが芋がらみが実に多い。世間的には、イモと言
うと女性のイメージが強いようだが、少なくともじゃが芋に限って
は、男性の方が女性などよりよほど執着があるのではないかと私は
思う。
知り合って間もない頃、私の作った肉じゃががたまたまさん生の口
に入った、それが機縁で結婚した、と言ったら信じるだろうか。言
葉にすると些か芝居じみて聞こえるが、まるきり嘘というわけでは
ない。
もう二十年近く前になる。私はまだ学生の身分だった。確か豊島園
で大学主催のイベントが催された日のことだ。その日は学生証を見
せるだけで遊園地に無料で入れるというありがたい一日で、私は友
人たちと遊び半分でそのイベントに参加したのである。
肉じゃがは弁当のおかずだった。おにぎりに肉じゃがに、他にも何
か持っていったのだろうが覚えていない。あらかた食べ尽くしたは
ずだったが、肉じゃがだけが少しばかり残っていた。それを持って、
なぜか帰りに行きつけのスナックに立ち寄ると、さん生がいた。当
時は小勇と言って、まだ二つ目になりたての頃である。
無理強いした覚えはない。風の強い日で、相当埃まみれになってい
たのでむしろあまりすすめなかった。それでも「食べる」と言った
のは、単なる好奇心から、だったようだ。
頬張り、噛み締め、飲み込んで、まず第一声は「ほんとに自分で作
ったの?」という疑いの言葉だった。二十歳そこそこの今時の女子
大生が、こんな美味い肉じゃがをつくれるわけがない、と思ったの
だそうだ。
もともと料理好きの私は、当時からきちんとだしを取っていた。じ
ゃが芋や人参は丁寧に面取りし、つまり手間ひまかけてつくってい
るのだから、まずいわけがない。まして肉じゃがなどはお茶の子さ
いさい、別段誉められても嬉しくない程度の、まずは当たり前の料
理だった。
彼にとってはこの肉じゃがが、しかし一種のカルチャーショックだ
ったらしい。その時初めて、私を一人の女性として意識したようだ。
結婚の理由、というほど大袈裟ではないが、親しく付き合う端緒に
なったのは間違いない。
「独身男は肉じゃがが好き」というCMがあるが、はからずもこの
一事がそれを証明している。しかも実はあの肉じゃが、そもそも別
の男友達に頼まれてつくったものだった。男という生き物は、やは
りじゃが芋が好きなのである。
さて先般、北海道の知人から当地の馬鈴薯が届いた。早速、肉じゃ
がをと言いたいところだが、さすがにそこまでセンチメンタルな私
ではない。代わりにミルクをたっぷり使ったじゃが芋のグラタンを
つくった。さん生が「うまい、うまい」と喜んで食べたのは言うま
でもない。
レシピ(じゃが芋のグラタン)
1. じゃが芋は皮を剥き、一センチ厚ほどに切る。
2. 鍋に1を入れ、ひたひたの牛乳、コンソメまたはブイヨン、
塩、こしょうを加え、吹きこぼれないように注意しながら芋に火が
通るまで煮る。
3. グラタン皿に2を移し、表面にパルメザンチーズをたっぷり
とかけ、オーブンまたはグリル等で焼き色を付ける。
※じゃが芋は水にさらすなどして灰汁を抜かない方がいい。灰汁
を抜いてしまうと粘りが出ない。火から下ろす直前に生クリームを
入れるとこくが出る。